Retired Colourman

何度も朝がやってくる

プログラミング言語のパッケージシステムとそれを中心にしたコミュニティについての研究がしたい

Scrapboxをprivateにしたのであった文章を一応持ってきた。書いたのが2017年とかなので微妙に今と違う部分があるが適当に読み替えてください。

概要

  • プログラミング言語におけるパッケージマネージャと,そのコミュニティについて
    • 適切に分類し
    • どのようなパッケージマネージャ,コミュニティが発達していくのかといったことを調べ
    • 最終的には実際にその研究の理論を実際に運用し測定する
  • といったことをしたい.

動機

  • 僕の好きな言語にDartというものがある.Googleによって開発された所謂AltJSだが,その他のAltJSとは違い,DartVMというVMをブラウザに搭載最終的にはJavaScriptを置き換えるという目標によって作られた.しかし,VMをブラウザに搭載するという目標を諦めReadableなJSにトランスパイルするdev_compilerを作り,所謂他のAltJSと同じように使っていくことを目標に切り替わっていった.現在でも開発が続けられている.
  • 有り体に言ってしまえばDartは流行らなかった.反対に,Node.jsのパッケージマネージャであるnpmはどんどん発展していったように思う.そこでどのようなパッケージマネージャが発達するのか,ということをぼんやりと考えるうちに「発達するパッケージマネージャにはどのような要素があるのか」「そのコミュニティに何か特徴はあるのか」ということを実際に調査していきたいと考えるようになった.

今まで考えたこと・調査したことなどのメモ

  • パッケージマネージャシステムは図書館のような知識情報システムであるといえるのではないかということ
  • Image
     *  Pはパッケージ
     *  Hubはシステム
    
  • 細かな部分を全てふっ飛ばしてざっくりと書くとパッケージマネージャはこのような図で表せると考える事ができる.
     *  パッケージがHubに集められてきて,それがユーザーによって使われていく.
     *  もちろんどのように使うのかなどの方法はそれぞれ異なってくる.
    
  • このシステムにおけるHubを図書館に,Pを本に置き換えると図書館のシステムを表していると考えることもできる.こちらももちろん細部は違うが.このようにパッケージマネージャは知識情報としてのパッケージをあつかうシステムであるとみなせるのではないかと考えている.
  • 上の図はプログラミング言語のパッケージマネージャにかぎらず,apt,Homebrew,chocolateyといったソフトウェアパッケージマネージャや,UnityのAsset Storeなどに適用できるのではないかと考えている.

  • 図書館などの情報システムとの差異

    • パッケージマネージャと図書館を情報システムとして比較していく.
    • パッケージマネージャ全体と図書館などの比較
      • 扱っているものが情報であるか物理であるか
        • 本は物理的に存在するが,パッケージマネージャが扱うパッケージは多くの場合データである.データはコピーが可能であり,またパッケージマネージャで扱われるデータはコピーされることが妥当であるためこれは大きな差異であると考える事ができる.電子書籍を扱う図書館の場合は除く.
        • この差異によって生まれる違いとしては次のようなものがあげられると考えられる.
          • 貸出か取得か
            • 図書館を運用する上では,誰が本を借りているか,いつまで借りているかなどの情報はシステムを運営する上で重要であると考えられる.一方でデータある場合コピーが可能なため,貸出ではなくそれぞれユーザが取得(多くの場合はダウンロード)し利用することができる.一方で,そのデータが有料で扱われている場合コピー可能なデータをどのように守るかなどの問題が発生する.
              • パッケージを登録するのがパッケージ作者であるかそうでないか
          • 図書館はそれぞれの本を図書館の本として登録するために司書が活動している(はず).一方でパッケージマネージャーでは多くの場合パブリッシュ時にユーザーが登録情報について記載する
            • たとえばpackage.jsonみたいなファイルにメタデータを書いてそれがvalidかどうかを判断する,みたいな仕組みが多い
              • つまりここがユーザーの手に渡ると中央にスタッフが必要なくなる
              • 一方で質が保てるかみたいな問題もある
              • データフィールドの設定
                • パッケージマネージャシステムの多くはパッケージの作成者(公開者)に対しそのパッケージに関する情報を公開時に求めることができる(例:パッケージ名,パッケージの説明,パッケージの作者情報(メールアドレス,名前,その他サービスのアカウント名),依存関係,変更記録など).これはシステムを作成する上でどのようにそのパッケージの情報を扱うかということを設計しやすいという利点がある

研究の流れ

- 基礎知識の補充
  • 現状情報科学に関するある程度の知識はあるため,必要なものを考える
    • 図書館情報学
    • 社会学
      • もともとどういう分野か理解できていない部分があるのでそこを埋めてからじゃないとなんともいえない
      • 社会学ではなさそう
    • 社会心理学らしい
    • パッケージマネージャー関連の調査
    • 評価方法の確立
    • 実装

相互理解の前提、本当の相互理解、消耗

いくらでも話されていることだと思うんだけど自分自身が結構前に実際に体験してから言語化していなかったのでメモ程度に。

相互理解、という言葉を僕が使うとき、それは相手の意見に納得する・賛成するという意味ではなく「存在する『事実』とその『解釈』によって『意見』が出てくる」ということを理解する、ということになる。おそらくインターネットで議論をやりなれている多くの人はこういう考えになっていると勝手に思っていて、言葉こそ違えどこういうゴールライン*1がある、という認識はある程度一緒であろう。

この場合、問題になるのは『意見』が『事実』と一体化してしまうことだ。その意見は一度『解釈』を通していて『解釈』を通している時点でそれは『事実』ではない、ということが(なんらかの形で)崩れてしまっている。僕らが他人の『意見』を理解する場合、相手がその『意見』を作るために当てている『解釈』をずらしてみたり変えてみたりすることでその差分等から理解していく、という方法が一般的だと思うので、相手が意見を事実としてしまうと、解釈をずらす試みができない。さらに言えばなぜその『解釈』を選択したのかということを理解するためには、他の『解釈』を採用しなかった理由を知る必要がある。*2*3ので、相互理解のメソッドが*4使えないので、相互理解ができない、となる。

ここまでの話はまあよくある話であってこんな中学生みたいなことを、と思うと思うんだけど、話の主題はどちらかというとここから。なぜ『意見』を『事実』としてしまうのか、ということについてで。これはまあいろんな理由があって、単に訓練されてないという話に全て落ち着く気もするんだけど。そもそも上の解釈事実に関する話も僕が『事実』として捉えているだけで本当は『意見』なのかもしれないとか。いやまあ実際『意見』なんですが、これを否定すると流石に日頃の議論が成り立たなくなってしまう、こういうふうに、『事実』としなければやっていられない『意見』というのが人それぞれ存在している。多分気が付かぬうちに生存本能的に『事実』としてしまっているものもあるだろう。そうなったときに、そのことを否定できるだろうか、ということを考えてしまって。当然誤った『解釈』によってできた『意見』で大きな被害が出ているといった場合、その『解釈』が誤っているということを『意見』を『事実』と認識するのをやめさせるかはともかくとして何かしらの手は打たないといけないが。*5

本当の相互理解というのは恐らくこういう自分が持っている相互理解のメソッドが使えないものも許容するものなのだろうな、と考えたら、非常に気が滅入ってしまった。別に興味ない話ならいいんだけど、自分が興味を持っていてかつそれなりにその意見を確信的に持っているとき、相互理解をしたいと感じている分野で相互理解のメソッドを扱えない対象と出会い、またその対象の持つ意見*6を許容しづらい場合、存在を受け入れるしか術がない。他者と自分の間で十分な議論が行われていない状態で、自分の意見から見て解釈が歪んでいると思われるものも、存在するということは受け入れないといけない、ということを改めて感じてなんだか疲れてしまったという話。


andymori 「シンガー」

全然関係ないけどandymoriのシンガーの「なんだか疲れてしまったね 参ってしまったね」という始まりめっちゃいい。なんだか疲れて参ってないことそんなにないからな。

*1:スタートラインでもある

*2:当然意見から解釈を読み取ることもできるが、これはあくまで推論的でしかない。解釈をずらして比べてみるのもなにか確証があるわけではないが

*3:ここで重要なのはなぜその解釈を選んだのかであって解釈そのものではない(僕の場合だが

*4:全然関係ないけど相互理解のメソッドってめっちゃ百合漫画のタイトルっぽいな……

*5:『』つけるのめんどいでここでやめます

*6:対象の中では事実の場合が多いが

2018年聞いて良かったCD

結構趣味で音楽を聞くのだけど、そういえばどういう音楽を聞いてるかみたいな話をあまりしてないなと思ったので書いてみる。2018年リリースのCDの中で良かったやつの感想とか。

the pillows / Fool on Cool generation

今年最高の一枚と言っても過言ではない。the pillows入門におすすめの一枚のアルバム。すべての再録のクオリティがまず高いし、新曲である『Star overhead』と『Spiky Seeds』はどちらも「the pillowsってこんなバンドだよな」みたいな感じがしていい。

再録された楽曲はどれもいいんだけど、個人的には『Freebee Honey』と『Thank you, my twilight』を推したい。特に『Freebee Honey』はなんで埋もれてたんだろ……ってなるぐらいよくて、しかも再録で重厚さが増して非常にいい感じになっている。くそかっこいいね。フリクリで流れたときは興奮で声出そうになった。まあ映画そのものは……。

唯一悲しいところとしては、ノンフィクションがインストだったことかな。声聞きたかった気もする。

the pillows / REBROADCAST

前のFool on Cool generation 一枚のすぐあとに発売された最高の一枚。もともと『Star overhead』と『Spiky Seeds』のクオリティがどちらも高かったのにこれが入ってないということはクオリティの高い一枚なのでは?みたいな期待はあったんだけど、その期待を遥かに上回る一枚でした。先に公開されていた『ニンゲンドモ』もこのアルバムのこの位置だととてもいい感じになっている。「the pillowsが急に社会派バンドに?」みたいな風に思った人はフル聞きましょう。。いい意味で懐かしい感じのサウンドも新しいthe pillowsも楽しめるいい一枚だと思う。ベースとドラムが厚い曲が多いのもよい。個人的なおすすめは『BOON BOON ROCK』です。だから傷ついたって平気だってそんなわけないだよな……。

Homecomings / WHALE LIVING

リズと青い鳥」で『Songbirds』をやっていたHomecomingsがアルバムの最後にSongbirdsを入れたと知ったのでどういう仕上がりになるんだろうかと思って聞いた。まず一枚のコンセプトが非常によくて、遠くに暮らす恋人同士をイメージした楽曲群とのこと。楽曲の始まりにいろんな音を入れてみるのはあるけど(チャットモンチーの『サラバ青春』みたいな)、そこにストーリーがあるとちゃんと意味が生まれてくるのはリズを見ていても知っていたけどやっぱり面白いなぁと思う。通しで聞いてほしい一枚です。みんなもこのアルバムで好きなカップリングを遠くに暮らさせような……。

サニーデイ・サービス / サニーデイ・サービス BEST 1995-2018

ベストを入れるのはちょっと変な感じもするけどアホみたいに良かったので。サニーデイ・サービスは本当に綺麗な詩が多くて、それを一度にたくさん楽しめるという感じです。一度気に入ったらずっと流しっぱなしになるアルバムだと思う。僕のおすすめは『若者たち』『あじさい』『雨の土曜日』『星を見たかい?』『セツナ』『桜 Super love』です。

Queen / Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)

Bohemian Rhapsody 見に行った人は聞くと更に楽しめるし、このアルバムを聞いてからBohemian Rhapsody を見に行ってもいい。

ArtThearterGuild / HAUGA

今年一番のおすすめです。本当にいい。ArtTheaterGuildは今年メジャーデビューしたthe pillows山中さわおプロデュースのオルタナロックバンドなんですが、これがすごい。とりあえず『Stamen』を聞いてほしい。

すごくないですか????メジャーデビュー一曲目ですよ。本当にすごい。シンプルで耳に残るギターから始まって、ちゃんと楽曲の雰囲気に合わせた言葉の選び、繰り返しの丁寧さ、楽曲のループの綺麗さが本当にいい。「いてえな」から始まって「いてえな」で終わる歌詞が本当にいい。寂しさや悲しさだけじゃない言葉選びをしてるの本当に偉い。個人的には一曲リピートにして聞いてほしい。最後と最初のつながりの自然さが楽曲の持つ味を更に深いものにしていると思う。

表題曲もすごいけど、他の曲のクオリティもすごい。『TOYRING』はStamenが終わったあとの寂しさをどこか吹き飛ばすようなドラムで始まりながら、それでも一方的な感情じゃないの本当に信頼しかない。流れるようなサビへのメロディ、間奏のソロギターもいい。『MADDER GOLD』もすごくて、「窓から飛び降りた」というフレーズがもたらすどこか暗い感情を一曲分かけて解きほぐしていくような歌詞がね……いいよね……。『蝶の舌』は打って変わって音数が少ないのだけど、その分『MADDERGOLD』や『TOYRING』にはなかった儚さをうまく演出できていると思う。昔の曲とか聞いてるに蝶の舌みたいな楽曲の方が一定数あるバンドなんだと思うんだけど、だからこそこのアルバムに『蝶の舌』しかおとなしめのサウンドを入れなかったの本当に正しい。ただ『暗い詩』『静かな曲』で終わることがない。いやーーいい。天才か?最後の『HOME ALONE』はこのミニアルバムを締めくくるにうってつけのサウンドだと思う。サビのメロディも好き。

そもそもこのアルバム一枚20分っていうのが良くて、通しで20分だとなんとなく通して聞こうかなという気持ちになることが多いのもあって、一曲一曲の持つ感触としては別にアルバムとしての感触があるのが嬉しい。やっぱミニアルバムでデビューするロックバンド信頼できる……。

本当にいいバンドだと思うのでマジで聞いてほしい。本当に売れてほしい……。


今年はいろいろいいアルバムに出会ったと思うけど、もうちょっと新しい曲聞くためにいろんなバンド聞くようにしたいなァという気持ちもある。来年も引き続き新規開拓していきたい。

ニコニコ改善インターンに参加してきました

株式会社ドワンゴ様によって主催された 2018年の夏のインターンである「ニコニコ改善インターン」に参加して来ました。そのまとめを書いていこうと思います。

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概要

今回のインターンは「改善インターン」ということで、最初から実際の開発チームに参加し、その中で業務上の課題を与えられ解決していく就業型のインターンでした。一日目から普通にデスクを与えられて業務をやっていたので、比較的珍しい形のインターンであるような気がします*1

今回私はニコニコ動画の新サービスである「ニコキャス(実験放送)」のWebフロントエンドチームに配属されました。

私が課題として与えられたのは「プレイヤーの重さの改善」です。実験放送ではゲームやお絵描きなどの新機能が追加されているのですが、機能が追加されている分、どうしても重くなってしまう部分があります。そこで、コメント描画を軽くするためにゲームエンジン上でのコメントレンダラーの試作を行うというのが今回のお題でした。 Webフロントエンドチームと聞いていたのでReact等の技術の復習をしていたらゲームエンジンの勉強をすることになったのは流石に驚きましたが、楽しかったです *2

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開発規模としては、三週間ほどで約260コミットという感じでした。自動生成されるコミットを除くと大体150コミットぐらいじゃないかなと思います。ニコニコのコメントという膨大な仕様を理解して実際に実装に落とし込んでいくのが結構難しかったです*3。試作とはいえどもその試作をベースに本格的な導入が始まるので技術的負債にならないようにしたり、パフォーマンスを考える必要があるのも難しかったです。

プレイヤーの動作を軽くすることが目的なので、開発が一通り済んだあとはリファクタリングを行いながら性能測定を行っていました。あまりWebブラウザでの性能測定を行うといった経験がなかったので、どうやって定量的に性能を測定し動かしていくかということについて教えていただいたのも良かったです。どこが重くなっているのか、どこが重いと判断されるべきなのかといった問題を確認しつつ、どうやって動作を軽くするかという仮説を立てていく作業はいい体験でした。業務上でどのような価値があるのか、その上でどのようなパフォーマンスを目標にするべきなのかということを考えるいい機会になったと思います。

感想

  • 職場は話には聞いていたけど本当にみんな出社時間がバラバラで面白かった
    • 人によっては八時ぐらいに来てるし、人によっては十二時とか十三時にくるし、なるほどという気持ち
    • 出社体系が自由ということよりは、バラバラにしてもちゃんと仕事が成立していくように組むことが必要なんだろうなといった気持ちになった
    • デスクのカスタマイズ等が自由なのもよかった
  • 実際の開発の様子をずっと見ていられたのは面白かった
    • どうやって開発を行っているかというのと、どのように開発環境の改善を行っていくかみたいなプロセスが見れていったのはよかった
    • どうしても趣味プロジェクトだと妥協してしまうし、小さなプロジェクトだったら最初からLinterから設定できるので、実際に大きなプロジェクトでlinterのルールがアップデートされていく様子とか見れたのはよかった
      • つらそうだった……
      • 現状の技術的負債を減らしつつ新機能を追加していくのをどうやっていくのかということを見れたのはよかった
    • 開発環境は勝手に改善されていくものではないということが改めてわかったのもよかった
      • エンジニアがたくさんいればなんとなくエンジニアのための環境になっていくように思ってしまう部分はあった
  • よくある感想だけど、実際問題労働をどうやっていくのかというのがわかったのもよかった
    • 一日八時間労働するとなるほど時間がない

*1:他のインターンに参加したことがないのでわかりませんが

*2: 割とどういう技術もつまみ食いしてきてなんでもできるよ〜みたいなことを言ったのでこういう配属になったのだと思う(そうですよね?)

*3:二重リサイズって何……?

*4: https://twitter.com/sigekun/status/1037585828115955712

『リズと青い鳥』という残酷で美しい物語について

追記

  • 2018-05-15:
    • ずっと前からこのテキストでの希美の感情の扱いが雑であることが気になっていたのですが,様々な理由から修正はしないことにしました.みなさんが各々正しい答えを見つけてほしい.
  • 2018-04-30:
    • 全体的に文章を修正しました : 差分
  • 2018-04-29:
    • みぞれの使っている楽器がフルートになっていたので直しました.こういう重要なところで間違えるやつは何をやってもだめ.:差分
  • 2018-04-28:
    • 希美の心情について修正をしました. : 差分

0. はじめに

この記事は,映画「リズと青い鳥」の感想についての記事です.

このブログを読む前に,自分が当てはまるものの注意書きを読んでいただけると助かります.

まだ『リズと青い鳥』を見ていない人へ

この記事にはネタバレがあります.まず『リズと青い鳥』を見てください.できればこの記事を読まずに.そうしてあのイントロの衝撃と,薄い膜の貼られたような世界観と,音楽とを味わってきてください.お願いします.

リズと青い鳥』を一度見た人へ

このブログが少しでも皆様の『リズと青い鳥』への感情を大きくすることができたら嬉しいです.できれば二回目を見てから見てほしい.『リズと青い鳥』の二回目は,きっとあなたに今までよりずっとずっと大きな衝撃を与えます.その後で,このブログを読んでくれたら嬉しい.もちろんこのブログを読んでから見てくれても嬉しい.

1.『リズと青い鳥』感想

イントロの衝撃

ご覧になった方はわかるだろうが,リズと青い鳥はまずイントロの作りが圧倒的に丁寧である.「みぞれが学校につき,希美と合流し,そうして音楽室に入り,練習を初めてタイトルロゴが出る場所」までの五分間前後*1をイントロとして見ると,その中で丁寧に丁寧にみぞれの感情描写が行われている.個人的に一番おもしろいのが音楽の作りだ.多分見ていた人は気づいたと思うけど,最初のシーンは希美がやってきた瞬間にメロディラインに楽器が加わる*2.また,希美の足音が観客に聴こえる少し前に,みぞれの足が動くなど,非常に細やかな動きによってみぞれの感情が表されている.

多分ここでノックアウトされた人は多いのではないだろうか.筆者もその一人で,始めてみたときはこのペースでみぞれの感情が見せ続けられたら作品が終わる頃には廃人になってると確信していた.少しペースが落ちたので一命をとりとめたが.

あの甘美な空間が素晴らしい,という話をずっと続けてもよいのだけど,ここで少しみぞれの感情だけではなく希美についても対比して見ていこうと思う.

希美とみぞれの違いを意識してみるとイントロは結構面白い*3.みぞれが希美の行動一つ一つに対して目線を向けるのに対して,希美はそうではなく,希美がパーソナルスペースを気軽に詰めるのに対して,みぞれは彼女からの侵入を心地良く思うわけであるなど,互いの関係がここで見えてくる.

言ってしまえば,ここはみぞれの恋愛的な感情と希美の友情を対比させる場面なのである.パート練習に入り,部屋が別れたあとも,多くの後輩と楽しげに談笑する希美と,一人で教室の奥に座るみぞれ,という対比がされているのだろうと考えられる.

「教室・理科室」と「廊下」,テリトリーへの侵入

さて,イントロの話をしたとおり,希美とみぞれの教室での違いがうまく表せられる.高校という箱庭的な環境が舞台になってくると,教室というのはその中でもコミュニティや内側を表していると考えることができるだろう.この教室,そして廊下という場所に注目して見ると,二人の対比がなされていることがわかると思う.

みぞれのテリトリーである「理科室」と「教室」

劇中でみぞれが一人でいることのある部屋は「理科室」と「教室」だ.教室で一人で練習する姿と,理科室で一人ふぐを眺めるシーンなどを思い返すことができるだろう.誰も寄せつけることのない彼女の内側が,あの空間にあらわれていくわけである.

教室

特に教室は,パート練習での希美の教室での様子を映し出すことによって,対比的にみぞれの孤独をより強く表現している.

しかし,そこに侵入者が現れる.新入生の剣崎梨々花だ.前半からコミュニケーションを取ろうとする彼女は,みぞれが一人でいる教室に入り込む.彼女の内側に入ってこようとする人間があらわれるのだ.梨々花は幾度となくみぞれのいる教室に足を運ぶ.オーディション前,オーディション後,プール後,練習.回数を重ねる毎にみぞれから梨々花への距離が近くなっていることを感じることができるはずだ.チャラメルの演奏中などは,梨々花の方が先に教室にいる.

チャラメルを練習している梨々花のいる部屋に,みぞれがあらわれるシーンは,教室という空間を彼女の内側と考えると,確かにみぞれの世界が広がっていることがわかる重要なシーンだ.

彼女の教室にあらわれる人物は他にもいる.部長の吉川優子だ.シリーズをかけてみぞれに気にかけていることがわかる彼女の姿が,ここでも描かれている*4

理科室

一方で理科室は,みぞれの未来を表現する部屋だと考えることができるのはないだろうか.白紙の進路調査票を持って演奏に躓いた彼女はあそこに必ず行くことなどが理由だ.

そこにあらわれるのは新山先生だ.彼女はみぞれに音大のパンフレットを渡し,彼女に道を示す.彼女の才能が見出されていることが,このあたりからわかってくる.先生もまた,彼女のテリトリーに侵入する.

教室の外で喋る高坂麗奈

一人その中で例外なのは,高坂麗奈だ.彼女は教室には入らない.教室の外の廊下に立っている.これが面白いなぁと思っていて,麗奈はみぞれの内部ではなくみぞれの演奏によって彼女を理解していることがわかるのだ.上手い演出である.そもそも,「そんな顔させたかったわけじゃないんです」と言えるのは麗奈しかいない.

新山先生と希美の会話の廊下

さて,次は希美の方を見ていこう.みぞれが音大を勧められたということを知った彼女は,自分も音大に進むと言う.この理由は最後に明かされるので言及しないが,ここでみぞれと対象的になるのが新山先生との話だ.

新山先生に希美が音大を受けることを報告するときに,新山先生は踏み込んでは来ない.この話の内容も重要なのだが,今回は喋っている場所に注目したい.廊下なのだ.教室ではない.彼女のテリトリーではない.ここがみぞれと対比的に描かれていると考えることができるだろう.

梨々花も,希美のテリトリーではなく,廊下で希美と会話をしている.これは彼女の領域に踏み込んでいる会話ではないが,後のみぞれと梨々花のコミュニケーションを考えると,ここも対比的に取ることができるだろう.

理科室に見る希美とみぞれの関係

理科室は,彼女の将来の内側だという話をした.この解釈を持って,窓越しのシーンを思い出すと,あのシーンの意味がわかると思う.みぞれが窓越しに希美の姿を見つめることと,そこがみぞれの未来のメタファーであることを考えると……*5

また,みぞれが希美に「ふぐの餌を一緒にあげたい」と理科室に招待することを考えると……*6

音楽の残酷さ

希美とみぞれが,互いがリズと青い鳥だと気づいたあとの演奏の場面.これが,本当に残酷だ.

オーボエのソロが始まると,奏者の多くが息を飲む.あまりにも力強く感情の乗ったそのメロディに,誰しもが圧倒されていく.そこで,もっとも強く圧倒されているのは希美だ.彼女は,あまりにも大きな才能の差を味わされるわけだ.他でもない希美,彼女のための演奏で.

その前に嫉妬をしていたと考えると,その衝撃は恐ろしいものがある.なぜ選ばれないのか,といった疑問の答えが,ここで明かされるわけなのだから.

そして演奏は続く

合奏という仕組みの本当につらいところだなと思うのは,曲が終わるまでは,演奏は終わらないということだ.フルートを膝におき,涙を流す希美を置いて,演奏は続く.これは,なによりも本当に残酷だった.あまり残酷といった強い力を持つ言葉を使いたくはないのだが,これ以外にわたしはあの場面を表す言葉を知らない.

ラストシーン(理科室でのハグ)

あのシーンは,二人の決定的なすれ違いとして描かれていることは多くの人が気づいていると思う.精一杯の告白をするみぞれと,そうしてそれに「みぞれのオーボエが好き」とだけ答え理科室を出ていく希美.

しかし,希美が追っていたものとみぞれが追っていたものとがわかると,あの場面は非常に希美にとって厳しい場面だと考えることができる.

前でテリトリーの話をしたが,希美がみぞれのテリトリーのメタファーである理科室に入り込むのがラストシーンが初めてだ.みぞれが希美を誘っても,希美は足を踏み入れることはなかった*7.その彼女が初めてみぞれのテリトリーに足を踏み入れる.この理由はいろいろ考えられるが,私は「何もかもを見せつけられた希美が最後にみぞれにすがった」のだと思っている.

自覚的か無自覚なのかはわからないが,希美がみぞれのテリトリーに入り込んだのはみぞれに求めるためだ*8.ここで初めて,希美はみぞれに*9求めることをする.

そうして希美の元にみぞれがやってくる.そうして「泣いてるの?」と聞く.ここが非常に重要で,みぞれは希美が演奏中に泣いていることに気づいていないのである.ここでも希美とみぞれのコミュニケーションは出来ていない.

その言葉を聞いた希美は,ずっと抱えていた嫉妬という感情を爆発させる.言葉の選び方や「初めから上手かったもん」といったセリフで彼女の感情が一体いつから積もっていたのかがわかる.みぞれからの問いかけも無視してまくしたて続ける.これは希美がみぞれに見せる始めての感情的な行動だ.

次にキーになるのが,みぞれからの「希美,聞いて」の言葉のときの希美の表情だ.この言葉を聞いたとき,彼女は普段の笑顔ではなく,皮肉を言うときの笑顔でもなく,期待するような表情になる*10.ここで彼女が何を期待したのかについて考えると,みぞれに「あなたのフルートの音は素敵だ」と褒められること以外ではないだろう.しかしみぞれがかけた言葉は違った.希美に恋をしていたみぞれは,希美が望む言葉について考えることはできない.あくまで希美から与えられたものを伝えることしかできないのだ.そうして期待した自分と与えられなかったことに落胆する「私」は「みぞれが思ってるような人間じゃない」と下卑する.

響け!ユーフォニアムシリーズはずっと丁寧に才能・技能というテーマに向き合っていたけれど,それが本当にわからされる場面であった.みぞれの持つ才能が希美にとってなんでもないことによって見つかり,しかも彼女はそれによって将来の道や支えてくれる人を得ていく.そうして自身がどうにかしてほしかった才能ですら,みぞれは「どうだっていい」と宣うのだ*11.また,希美の感情がうまくつかめると,ここの悲しさが増す.

そうして極めつけが,あの抱擁のシーンである*12.もう望んでいるものは与えられないはずなのに,希美はみぞれの背中に手を回す.ここも期待が現れていると思っていいだろう.「希美のフルート」が「大好き」と言ってもらえるかもしれないと.しかし,期待は裏切られた.

そして希美の「ありがとう」という言葉が笑い声とともにあらわれる.ありがとうの意味は声優の東山奈央さんが試写会で発言していたものがある.

上の流れをふまえてみると,納得すると思う.流れがわかっていなければ,あまりにも自分勝手な希美の発言に怒りが湧くところだが,上のような流れを踏まえると,当然の流れになる.

そうして理科室から希美は出ていく.みぞれのテリトリーのメタファーである教室から出ていく姿が描かれるのは彼女だけなのだ.これはみぞれの内側にいることはできなかったという意味なのだと捉えることができるだろう.彼女たちの決定的なすれ違いは希美の回想で幕を閉じるのだ.

初めて求めようとした希美と,初めて与えようとしたみぞれ.しかしそのやり取りは見事なまでに失敗に終わるわけで,ここが互いのコミュニケーションの薄さが見せた限界だったのかと考えることができるだろう.一度のコミュニケーションでは,伝えきることはできなかったし,そもそも希美は,本当にほしいものを最後まで口に出すことはなかった.口に出したからといって与えられるわけではないのだから,当然といえば当然なのだが.

「ハッピーエンドじゃん?」

こう考えていくと,本当に救いのない話みたいになってしまうが,希望が全く無いわけではない.

一つは希美の「ハッピーエンドじゃん?」というセリフ.リズが――つまり希美が,青い鳥――つまりみぞれの帰ってこれるような場所を作ることができるのであれば,みぞれは希美の元へ返ってこれるわけである.

そうしてもう一つは,終盤に流れた二羽の青い鳥.彼女たちの未来を写していることを信じてやまない.

まとめ

リズと青い鳥は,とても丁寧に心情を描きながら,才能や感情,コミュニケーションといったテーマに取り組んだ作品だったと思う.高校三年生という最後の青春を吹奏楽にすべてぶつけて,そうして選ばれるものと選ばれないものの差や,伝わらない言葉といったテーマをよく描いている.作品の細部や場所といったところを見ても,すべてが丁寧に作られていて,本当に素晴らしい作品だと思った.こういう作品が見られる時代になったのだなという感動と,切り裂くように画面から伝わる感情の数々を大切にして生きていきたい.


正直パンフレットを読めばわかるような話をつらつらと書いてしまった気持ちはあるのだけど,あまりにも心の内側を占めすぎて精神的に辛かったのでこうして文章にさせてもらった.楽しんでいただけたら幸いである.

*1:正確な時間は計測していないのでわからない.毎回図ろうと思うのだけど見入っている……

*2:まだサウンドトラックが来ていないのでどの楽器かがわからなくて悲しい

*3:というかここぐらいしか苦しまずに希美の感情を考えることができる場所がない

*4:ところで優子とみぞれについての最高の短編が入っているので,リズと青い鳥原作2冊を読んだ人は短編集である「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話」を是非読んでください.というか原作の2(一番暑い夏)での答えがあの短編にあるのだと気づいたら泣けてきた……

*5:本当につらい

*6:本当に辛い

*7:もっとも,あれは音大のパンフレットを見つける流れがあるからだが.

*8:ここを確信している理由は公式から提供されているツイートが理由.この下で紹介します.

*9:もっといえば誰かに

*10:何故これが期待するような表情だとわかるかというと,みぞれの期待するような表情と同じ雰囲気で描かれているため.丁寧な作品はこういうところが本当にいい.ありがとう京都アニメーション……

*11:極めて個人的な感情の話をすると,ここは本当に見ていて辛かった.三回目であっても,みぞれが「のぞみ,聞いて」と言うたびに直視できなくなってしまう.

*12:話は少しずれるが,ここでみぞれが上げていくものとイントロ部分がリンクしているのでその辺りを意識してみると良い